☆ときどきコラム


連載中の「ときどきコラム」のアーカイブスです。

つれづれなるままに日暮し心にうつりゆくよしなし事をそこはかとなく書き作っています。 


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ときどきコラム#1~#61
つれづれなるままに日暮し、心にうつりゆくよしなし事をそこはかとなく書きつくりました。
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#75 ◎働き方改革なんちゃって                        2020727

 働き方改革の実績を上げたいので上司は定時で帰れという。上司から丸投げされている仕事は山積みで、とても定時には帰れない。そういうわけでいつもパソコン抱えていつものファミレスで仕事をしている。

 そんな折も折でコロナなんて蔓延しはじめてファミレスも自粛で閉店になったので、仕方なく仕事を家に持ち帰る羽目になった。続いて今度は上司から、出社におよばず仕事は全部家でやれとのお達しで、ずっと家で仕事をしているが、女房子供がやかましくさっぱり仕事ははかどらない。

こんな働き方のどこが働き方改革なんだろうか。

 そんな愚痴を言っているサラリーマンの姿が目に見えるようだ。

 今回のコロナパンデミックは何が本当に必要で、誰が本当に必要な人なのかということをはっきりと分からせてくれた。 危機や災害になってはじめて人や物事の真価が問われるということに気が付いた。

 不要な会議が何と多かったのか。会議で不要な出席者が何と多かったのか。役にも立たない資料作りの何と多かったことか。いらない長電話、いらない根回し、いらないゴマすり報告などが多すぎた。

 仕事の優先度という以前の不要な雑務の何と多いことか。この計画書もあの資料ももともとは部長さんの仕事でしょ。お客さんへのお詫びに何で関係のない自分が行かされるの。もういい加減丸投げは止めて欲しいのです。

 自分を取り巻く状況が読めない、だから優先順位も読めない、そんな指導者ばかりだから組織の生産性は一向に向上しない。だからコロナ対策も的外れで一向にはかどらない。

 何でいつまでたっても要求仕様が決まらないの。何でいつまでたってもちゃんとした設計書が書けないの。

 本来やるべき人がやるべき仕事をちゃんとやってくれれば何も問題は起きないが、何でこうなるの! 


#74 ◎俺もお前も田舎っぺ                             20207月8日

 吉幾三の36年も前のヒット曲である「俺ら東京さ行ぐだ」の歌を今また聞いて腹を抱えて笑った。

みんなも良く笑ったが、自分もこの笑われた人と同類だという意識はきっとない。

 歌の一節はこうだった。 「テレビも無エ ラジオも無エ くるまもそれほど走って無エ ・・・・朝起ぎて 牛つれで二時間ちょっとの散歩道・・・・俺らこんな村いやだ 俺らこんな村いやだ 東京へ出るだ 東京へ出だなら銭(ぜに)コア貯めで 東京でベコ飼うだ」

 牛と暮らすだけの何にもない田舎暮らしが嫌だと言っているのに、東京に出て銭ためて家やテレビや車を買いたいと言うのではなく、牛を飼いたいと言っている。

 吉幾三のことを笑っている場合ではなく、都会にいる多くのの日本人は地方や田舎からの出身者で、昔ながらの田舎的すなわち日本の伝統的な規範のもとで成長し、その発想はやはり田舎っぺの限界をいつまでたっても超えることができていないのだ。 一流会社のりっぱな社訓や行動規範はやはり村の行動規範と同じであり、全員出席・全員賛成の会議のやり方や稟議という決済方法などをはじめとして、世話人型指導者による組織運営など、多くの仕組みも昔の村の寄合と同じなのだ。

 これらの伝統的な昔ながらのやり方は平時においては強力な力を発揮するが、コロナ爆発によるパラダイム的な社会変革が必要な時代においては昔の村の行動規範を少しは越えた合理的な行動規範が必要だろう。

 新しい行動規範を考えたので、明日会社で全員に集まってもらって全員の賛成を取り付け、上層部には稟議書を回すことにしたい。


#73 ◎#だめだこりゃ                                    2020612

 消去・破壊したはずの役所のHDDが中古市場に出回ってしまった。フジツーリース社が消去・破壊を委託したブロード社の社員による窃盗横流し事件。

 契約した覚えがないのに勝手に契約成立の書面が送られてくる。トーデン社が電話勧誘業務を委託したリライア社によるデータ改ざん・捏造事件。

 持続化給付金事業の民間委託における不透明な契約。4次下請けまである多重請負構造。

 これらに共通するキーワードは、「業務委託」と「多重請負構造」だ。

 業務委託において、委託する側およびされる側がそれぞれの実行責任を明確にし、それを確実に実行できれば問題はないが、近年その責任が果たされず問題や事件を起こすケースが多発している。

発注元⇒元請け⇒2次下請け⇒3次⇒4次と進むうちに、いつしか責任感も薄れ、伝言ゲームで起こるような、最初はりんごだったものが最後にはじゃが芋になってしまうような、嘘のような本当のことが起きてしまう。福島原発事故の除染事業では何と6次下請けまで有ったという。

 私たちのITの世界でも業務委託と多重請負構造はごく普通に行われているが、上に記した事例のようなことがあるのかも知れない。

 

 いまにこの国は不健全・非経済的な業務委託と多重請負構造で衰退して行く運命にあるのかも知れない。 これは地獄への道行きなのか。


#72 ◎災厄によく耐え続けられる私たち日本人       2020522

 過去、私たち日本人は多くの災害や災厄に何度もみまわれ、その都度奇跡的な復元力でもってこれらを乗り越えてきた実績をもっています。 これまでに被った大きな災厄としては、先の太平洋戦争(戦没者数は310万人)、記憶に新しいものとしては、東日本大震災・福島原発のメルトダウン(死者・行方不明者18428人、避難者約47万人)があり、私たちはこれらの大災害を耐え忍んで生き永らえてきました。 大災害時の日本の庶民の粛々とした冷静な行動および助け合いは、しばしば海外のメディアの称賛されるところとなっています。

 極限の状況下においてさえも発揮されるこれらの穏やかで思いやりのある行動は、単に一時代の権力者による民衆教育などによって身につくものではないでしょう。 ましてや戦前の軍国教育の成果でもなく、戦後の輸入民主主義のたまものでもないでしょう。

 日本の庶民は、繰り返し襲い掛かる地震・台風・飢饉・疫病にたたかれ続け、多くの犠牲を出しながらもその主な生業である稲作という共同作業を通して、弱きも強きも共に生き抜くことが最良の生き方であるということを体得してきたものと想像されます。 それらの経験則の集大成は、「和を以て貴しとなす」ことを中心に日本の伝統的な行動規範とよべるものとして多くの日本人の心の中に結実しているのでしょう。

 この伝統的な行動規範は、今回の新型コロナのパンデミックに対しても日本における爆発的な感染を抑制する大きな力となっているのではないかと思われます。

 

 「もうしばらく辛抱しよう」「他人を悪く言うのはやめよう」「自分勝手な行動は慎もう」「明けない夜はない」「天は越えられない試練は与えない」「みんなで一人の落後者も出さずに生き抜こう」と私たちの伝統的な行動規範は私たちに語り掛けてきます。 それは私たちの両親・先祖たちからずっとずっと遥か昔から伝えられてきたものにほかなりません。


#71 ◎彩雲と全天恒星図                              202051

 夢か幻か、不思議なことが一日の間に二度起きることもあるようです。

 最初は今日の未明に、全天恒星図の夢を見ました。 全天恒星図とは、恒星・星団・星雲などの位置や光度を示した平面図のことですが、何故だか分かりませんが、きらめく星々で描かれた星座の座標が天空広く描かれた夢を見たのです。 そのせいか久しぶりにすがすがしい朝日でスッキリと目覚めることができました。

 それから数時間たった後に朝の散歩に出かけ、しばらく河辺を歩きながらふと南の空に目をやったところ、東西にたなびく雲が虹色に輝いているのです。生まれて初めて見る不思議な光景でした。

 この虹色に輝く雲は彩雲といわれ、古来吉兆とされてきたもののようですが、コロナ終息後の私たちの世の中にパラダイムシフトが起こる予兆なのかも知れません。

 そこで下手な一句を。

 彩雲や さてコロナの後の 丁か半

  写真は今朝の彩雲を撮影したものです。


#70 ◎新型コロナの皮肉な3原則 密閉・密集・密着                   2020329

 新型コロナウィルスが全世界に蔓延している。日本においても感染は大都会を中心にほぼ全国に拡大しており、眼には見えない悪魔のような存在がひたひたと足元に忍び寄ってきている。不安感がだんだんと恐怖感に変わってくるのを感じている。

 新型コロナの感染を防ぐための三つの原則として、密閉された場所に集まらないこと、複数の人間で密集しないこと、手が触れるような距離で人間どうしが密着しないこと、が挙げられている。この3条件がそろえばウィルス感染の危険性が非常に高くなるそうだ。

 感染症の専門家や政府の高官たちは、密閉・密集・密着するなと口をそろえて言っている。

 

 この三つの条件はどこかで聞いたことがあると思ったが、これらは仕事における良いコミュニケーションを成立させる重要な条件でもあることに気が付いた。すなわち、良好な意思疎通を行うためには、邪魔が入らない閉ざされた場所で集まり、顔と顔を突き合わせて、活発に話をする必要があるということだ。

 コロナ対抗策とは逆に、密閉・密集・密着が密接なコミュニケーションの最適条件となる。

 日本のビジネスの社会では個人間ないしは組織間における分離分断が進み、情報共有が進まず業務の生産性を著しく阻害しているという不都合な現実がある。 議論・討論・検討会がめったに行われないような現場は少なくない。みな誰とも顔を突き合わせて話したくないのだ。

 皮肉なことに、そのような職場では恐らくコロナ感染は発生しないだろう。

 

 コミュニケーションが苦手な人たちに幸いあれ。


#69 ◎Oh わがよき友よ!                          2020325

 徒然草(つれづれぐさ)の第百十七段で兼好法師は次のように語っている。

 友とするに悪き者、七つあり。一つには、高く、やんごとなき人。二つには、若き人。三つには、病なく、身強き人、四つには、酒を好む人。五つには、たけく、勇める兵。六つには、虚言する人。七つには、欲深き人。

 よき友、三つあり。一つには、物くるゝ友。二つには医師。三つには、智恵ある友。

 

現代のビジネス社会に置き換えると次のようになるだろう。

 友にしたくない者に七つがある。

 一つには権威を笠に着て威張り散らす奴。私部長です・課長ですと言って仕事を丸投げする奴。

 二つには未熟な若輩者。根拠のない自信過剰。小人は度し難し。

 三つには弱い者の気持ちが分からない身体強健な奴。いわゆる頭の悪い体育会系。

 四つには酒癖の悪い奴。泣き上戸、愚痴上戸、からみ上戸。二次会には行きたくない。

 五つには猪突猛進の短気な奴。最初は勇ましいがすぐにヘタレる。同調したら悲惨な結果を招く。

 六つには嘘つき。嘘八百をもっともらしくプレゼンする奴。信じる者は救われない。

 七つには欲深でせこい奴。他人に千円渡して喜ばせ、自分はこっそり一万円ゲットする奴。

 

 一方、よい友に三つある。

 一つにはこちらが喜ぶような物をくれる人。中々いないがたまにはいる。

 二つには医者。老病生死にかかわる知恵は得難い。自分で習得すべし。

 

 三つには困ったときに知恵を貸してくれる友。金を貸してくれなくても知恵だけでも良い。


#68 ◎こんなリーダーが欲しい                         2020319

 組織を生かすも殺すも、あるいは人を生かすも殺すもリーダー次第でしょう。

 人を生かすためには、リーダーとメンバーの間の信頼関係が必要不可欠です。

 信頼関係のない組織においては、上司からの「やってください」という業務命令だけでは、部下は「はい喜んで」ということにはなりません。これらの不信の連鎖は必ず組織崩壊を招きます。

 信頼関係を築くために必要な行動やコミュニケーションの条件には次のようなものがあります。

 

【信頼関係構築の人間的な条件】

 ◎業務内容が理にかなっていること。

 ◎業務内容が心情的に納得できること。

 ◎業務の依頼において、丸投げしないこと/させないこと。

 ◎業務内容が具体的かつ実現性が明瞭であること。

 ◎約束が守られること。裏切りがないこと。

 ◎嘘がないこと。

 ◎強制によらず自発的・自律的であること。

 ◎ある種の夢や希望の実現性が感じられること

 ◎業務遂行にあたって安心感があること。

 ◎万一失敗した場合でもレスキューが期待できること。「俺は知らない」などと突き放さないこと。

 ◎犠牲者を絶対に出さないこと。

 

 壊れてしまった組織を回復させるためには、組織体制の再構築や資金・資材の再整備と同時にこれらの信頼関係構築のための人間としての行動が必要不可欠であることを肝に銘じるべきです。 


#67 ◎IT開発組織再生のポイント :2020313

 近年、大手のITベンダーにおいて組織劣化の進行が甚だしい。

 主な原因は、下請けベンダーに対する無責任な仕事の丸投げにあるだろう。

 開発業務の効率化とかコスト削減とかという理由で、最初は一部の業務のアウトソーシングで始まったものが、評価業務⇒製造業務⇒設計業務の外注化と拡大し続け、ついには開発を統合マネジメントするという最も重要なプロマネ業務の必要性すらも認識されなくなり放棄されてしまっている。

 そういうわけでプロジェクトには開発部長とか課長とかの名称を持った人は居ても、プロジェクトマネージャーとかプロジェクトリーダーとかの役割を果たす人は見当たらなくなっており、プロジェクトは失敗の連続となっている。

 そのような開発組織を改善するために管理職の配置替えをいくら行ったとしても、一向にプロジェクトの健全化は実現しないだろう。 自分たちの本当の役割を認識しない人間たちの配置を変えただけでは何の効果も出ない。 自分たちの悪しき開発スタイルをはっきりと自覚しなければ、真に有効な開発スタイルへの転換はできないだろう。

 開発プロジェクトに部長や課長というタイトルは不要なのだ。 必要なのは統合プロジェクトマネジメントを実行するプロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャの投入および育成なのだ。 


#66 ◎わかっちゃいるけど止められない :2020年2月23日

 やるべきことをちゃんとやっていれば、私たちが今ある現在はもう少しましな現在になっていたのかも知れない。 QCD・人材の育成に関する数々の失敗をその都度反省し、有効な歯止め対策を実行していれば、現在のような悲惨な状態にはなってはいなかっただろう。

 管理職層もチームリーダー層も多数の技術者層も、目前にある不都合な現実を直視するだけの気力と体力を持ち合わせていなかったのかも知れない。 見て見ぬふりを何年間も続けて来たのだろう。

 今や、その開発組織および構成員自体がリスクそのものになってしまっている。

 

 一人二人の人間が危機を叫んでも、結局何も動かず、今日も明日も検討中を続けているうちに、すべてが手遅れになってしまうことだろう。


#65 ◎開発組織の老朽化 :2020129

 過去に作られた橋やトンネルなどの道路インフラは全国に約77万ヵ所あり、その内約8万ヵ所は5年以内に修繕が必要だが、その内約8割は未着手だと新聞が報じていた。(朝日新聞 2020.1.10

 着手が進まない主な原因は財政難や人手不足にあるという。 だからと言って放置したままではいつか橋は落ち、トンネルは崩れ、多くの人々が犠牲になってしまうだろう。

 老朽化するものは道路インフラばかりだけではなく、開発組織にも同じことが言える。

 組織を取り巻くさまざまな環境も日々変化しており、それらの変化に対して組織も日々対応していかなければ失敗やトラブルが発生し、とても顧客の満足を得る仕事はできないだろう。

 人間の組織はハード的なインフラ構築物に比べて劣化の速度が速い。現在うまく行っているやり方も1年後には通用しないかも知れない。

 トラブルや障害は、現実の要求と自分たちのやり方が合わなくなった時に必ず発生する。自分たちのやり方を現実の要求に合わせる行動がいわゆる改善活動なのだ。トラブルを直すための応急処置は改善活動とは呼べない。問題の真因を正確に把握し、自分たちの現実に合わない行動を根本的に修正していくことが改善活動の本質なのだ。

 

 いつまでも昨日と同じやり方や考え方を続けていれば開発組織は急速に劣化して行き、最終的には社会に不要なものとして廃棄される運命が待っているに違いない。


#64 ◎何でこんなつらい勤めをせにゃならぬ :2020117

 日々の期限に追われてばかりはつらい。深夜残業・休日出勤や徹夜もつらい。もっと安く・もっと早く、もっと良いものをとの要求もつらい。言われ放題のクレームはもっとつらい。残件100で明朝のリリースはつらすぎる。

二等兵の歌

 私は現場に散る花よ 昼はしおれて夜に咲く

 いやなお客にも愛想の笑い 鬼の課長の機嫌とり

 私は何でこのようなつらい勤めをせにゃならぬ

 これも是非ない家族のため

 

 昼はしおれて夜に咲く

 いやなお客にもヘーコラと 鬼の部長の機嫌とり

 私は何でこのようなつらい勤めをせにゃならぬ

 これも是非ない会社のため

 全員総玉砕!突撃!!

 (水木しげる著 「総員 玉砕せよ!」の「女郎の歌」の替え歌;筆者作)


#63 ◎信頼と汗と情熱とプライド

           ~TV「狙われた半沢直樹のパスワード」から :202019

 ドラマの最後にプロジェクトリーダー高坂圭がシステムにウイルスを仕掛けた犯人に対して次のように言っていました。

 あなたが盗もうとしたお金には、預けた方々ひとり一人の大切な人生がかかっています。そんな大切なお金を預けてくださるのは、お客様が我々のことを信頼してくれるからです。信頼なくしては、この仕事は成り立ちません。 だからこそここに居る方々やエンジニアは汗と情熱を注ぎ、プライドを持って仕事をしています。 にもかかわらず、あなたは私利私欲のために、このプロジェクトを食いものにし、我々の信頼を裏切ったのだ。

 これから先、またあなたの様に汚い手を使って大金を手に入れようとするものが出て来るでしょう。ですが私が必ず守ってみせます。ここに居る信頼できる仲間たちと力を合わせ、完璧なシステムを作ってみせる。私の信じる人たちと必ず作ってみせます。(半沢直樹イヤー記念 エピソードゼロ~狙われた半沢直樹のパスワード 2020.1.3 TBS1 放映より)

 近年トラブルが多いITシステムの開発において「お客様の信頼に対して、汗と情熱を注ぎ、プライドを持って仕事をする」と言い切れるエンジニアでありたいものです。

 

 4月からの半沢直樹の本編放映が待ち遠しい。

#62 ◎軍曹とプロマネ 20191220

 将棋界の二冠になった永瀬拓矢王座は、将棋に打ち込む厳しい姿勢から「軍曹」の愛称で知られている。 その研究熱心さや思ったことを必ずやり遂げる気持ちの強さや義理堅さを評して軍曹とあだ名されています。

 

 軍曹とは旧日本陸軍における下士官の階級のひとつで、曹長の下で伍長の上に位置していました。

 軍曹という呼び名からは戦場や人間関係を知り尽くした頼りがいがある兄貴分という感じを受けます。

 軍曹の役割は、兵のまとめ役であり、兵の教練役または分隊長を務め、兵士たちを叱咤激励し、部隊の士気と秩序維持を担っており、危急存亡の事態においては自ら先頭に立ち率先垂範を体現する者が多かったと言われています。

 日常の活動においては良く学び、良く働き、良く笑い、良く泣き、弱い部下を助け、不正を働く者を許さず、兵士たちの良き兄あるいは父親がわりとして行動する者たちでした。また古参の軍曹の意見は新人少尉の意見より優位とされ、分隊長の場合、率いる兵員の概数は10名から20名でした。

 

 旧日本陸軍においては、官僚的・教条的な上級幹部層における錯誤や物資不足および貧弱な装備を、軍曹を中心とした下士官層の自律的な能力によってよくカバーしたといわれています。

 すなわち旧軍の強さを維持してきた者たちは小隊長や軍曹と呼ばれた中間層に位置するリーダーたちでした。軍の強さは将校たちの優秀さではなく現場の知恵に長けていたこれらの軍曹たちの力によって維持されていたのです。

 

 一方、戦後の会社組織は、その運用思想や規範の違いはあったとしても、いずれもピラミッド状の階層構造を持っています。組織の規模の大小にかかわらず、組織の優劣・強弱は上位経営層と一般従業員層の間にあって双方の層の媒介的な役割をもつ中間層の人たち、すなわち会社でいえば課長・主任レベルなどの現場のリーダーたちの働きに拠っているでしょう。

 プロジェクト組織においても同様のことが当てはまり、中間層の人々として思い浮かぶのはプロマネ(プロジェクトマネージャ)たちです。かれらプロマネは現代のプロジェクトにおける軍曹ないしは下士官と呼ぶのにふさわしい人たちでしょう。

 

 組織の活性化はひとえに、その組織の中間層にだれをあてるかにかかっているしょう。

 自分の頭で考えない中間層は上下に挟まれて悲哀を感じることでしょうが、中間層とは比較的に自由な行動が許されている職位であり、自律性を発揮できるプロマネにとっては活躍できる千載一遇のチャンスだと言えるでしょう。

 現場に精通し百戦錬磨の人生経験をもつ有能なプロマネならばへたな失敗をすることはないでしょう。

いつも失敗ばかりが続く組織は無能な者をプロマネに任命しているせいでしょう。

 

 あなたは軍曹と呼ばれるプロマネになってみたいとは思いませんか。


☆ときどきコラム アーカイブ #54~#61   

 #61 ◎連想妄想暴走 :2019年3月21日

 何気にテレビを見ていたたら、今は亡き市原悦子が女優仲間の慰労会でカラオケのマイクを握って「あんこ椿は恋の花」を唄っていた。 ところが唄っている最中に本物の都はるみが突然登場しデュエットを始めたから一同大仰天となった。

 「♪三日おくれの便りをのせて 船が行く行く 波浮港 いくら好きでも あなたは遠い 波の彼方へ 去ったきり あんこ便りは あんこ便りは ああ 片便り」。

 良い唄だ。三日遅れの便りなんて実にのんびりとした時代だった。いくら伊豆大島だといっても今のamazonならきっと当日配送するだろうなと妄想した。

 良いよね「波浮港(はぶみなと)」って語感。「はぶみなと」ってどんな港だろうと、また妄想した。

 「あんこ」って「姉っこ」つまり若い娘さんってことで、またまた妄想が広がるわけ。

 最後のとどめが「片便り」とくる。「片便り」なんて言葉を使ってみたこともないが、辞書にはちゃんと「手紙を出しても相手からは返事が来ないこと」と書いてある。因みに作詞は星野哲郎先生でした。

 港を妄想していたら、船がみえてきた。船といえば、昨日どこかの誰かがいっていた蟹工船プロジェクトを連想してしまった。小説「蟹工船」は2008年にリバイバルブームが突然起こり、新潮文庫が異例の40万部のベストセラーとなったそうな。どこかの誰かが言っていた蟹工船プロジェクトとはある炎上プロジェクトのことで、担当者たちは日夜を分かたず連日の徹夜作業だとのこと。みんなが乗っている蟹工船は、別名、監獄船、地獄船、海のタコ部屋とも呼ばれている実に恐ろしい船だそうです。凍り付く海に囲まれ、逃げたくても逃げられないのです。

 

#60 ◎貧乏は敵だ     201935

 昔、東北地方から集団就職で東京へ出て来た友が言っていた。貧乏は敵だと。

寒村の貧しい農家で育った彼は成績優秀で向学心に燃えていたが、高校に進学することをあきらめて東京の下町の工場に就職した。

 住み込みの新米の朝の日課は、朝飯前の掃除で、片付けが終わったあとに食卓につくのだが、先輩たちはほとんど食事を終えるところで、鍋の中のみそ汁は具がほとんどなく汁だけ、好物の納豆も残っているのは糸引き納豆の糸だけで辛い毎日だったと言っていた。

 ある日親方からタバコを買ってこいと言われてタバコ屋に行ったが、預かった百円札を崩すことを標準語で何と言えば良いのか分からず、郷里の言葉で“百円つぶしてけれ‘と言ったところ、タバコ屋のばあさんはニタっと笑って、トンカチでつぶすのかいと言われた時は恥をかかされたと言っていた。

 現在の日本ではさすがにこのようなことはなくなったようだが、経済的な貧困に変わって心の貧困が蔓延している。整理整頓された近代的な工場やオフィスは妙に静かな雰囲気が漂っており、人の話し声もあまり聞こえてこない。活気がないのである。話しあいの場である会議は、建設的な討議よりも不始末の対策会議が多く、誰のせいでもなくなった不始末を誰がやるのかでもめている。

 部長は部長の仕事をせず、課長は課長の仕事をせず、担当は上からの指示を待っているだけである。

 人々はみな孤立分断しており、チームワークも生産性向上も言葉だけが上滑りしている。

 平気で黒を白と言い、自分がやる気もない提案をし、あるいは自分がやらされるのを恐れて何も発言をしない、そんな職場が広がっている。 こころの貧困の時代がやってきた。

 あなたならどうしますか。

 

 

#59 ◎必勝のステルス戦法2019227

 

 戦いの勝利の方程式の一つは、自分から相手が見えていて相手からは自分が見えていないこと、すなわちステルス戦法にあります。今も昔も、先に敵を捕捉したものが勝つ。信長の桶狭間の戦いにおいては、少数軍の信長側が先に今川の本陣を捕捉し大逆転の勝利をおさめ、日本海海戦においては連合艦隊が先にバルチック艦隊を待ち受けて敵艦隊を全滅させました。この戦法は特に弱者が強者を倒す際の最も効果的な戦法の一つとして知られています。

 

 同じことがビジネスの世界においても言えます。多数の利害関係者に囲まれた中で新参者の弱者が生き残る方法として、このステルス戦法が効果的に働きます。

 

 例えば、ある仕事を実行しようとする場合、それによって利を得る者や反対に損をこうむる者たちが必ず出て来きます。損をこうむる者たちは必ず抵抗勢力として自分の前に立ちふさがってきます。

 

 それらの抵抗勢力の牙を抜く方法は、自分の仕事の本質を彼ら抵抗勢力から見えないものあるいは理解できないものにしておく必要があります。その本質とは人それぞれでしょうが、基本はすべての命を伸ばすことに置かれるでしょう。相手が利にこだわるのなら利を与えますが、こちらの行動の本質は決して相手には見せてはいけません。相手から見えなければ、相手は抵抗のしようもないのです。これがビジネスにおけるステルス戦法の極意だと言えます。

 

 仕事の内容そのものについても同じことが言え、自分がその仕事の内容を理解していなければ、すなわち仕事が見えていなければ、その仕事に負けてしまう結果を招くことになります。

 

 相手が人間であれ仕事であれ、それを先に補足しておく、すなわち問題の対象についての情報収集とそれに対する合理的な対策を用意することが必勝のステルス戦法の極意だと言えます。

 

 あなたはステルス戦法を実行する前の地道な努力と準備を実行できますか。あなたは対象を事前に補足できますか。逆にあなたは敵から丸見えの実に分かりやすい人間なのでしょうか。

 

 

#58 ◎居場所と行き場所 :2019220

 どこかへ出かけるのですが、さて家に帰ろうという段になって帰り路が分からないという心細い夢を時々見るのです。 いい所まではたどり着くのだけれどもう一歩の所でたどり着けないのです。夢はここまでで、目が覚めて我が家に戻っていることに深い安堵感を覚えます。

 なぜこのような夢を繰り返し見るのだろうかと考えていてふと気づいたことは、人生は常に帰る場所を探し続けて旅をしているのではないかということです。どんな人間でも自分の居場所が必要であり、また何らかの目的を達成するためにはどこかに行く必要があり、自分の居場所からその行き場所に出かけ、また元の自分の居場所に帰ってくることを繰り返すことで自分の存在を意味のあるものとして確認できているのでしょう。

 自分の居場所は自分が安心して帰ることができるところであり、これはすべての人間が生きるためには必要不可欠なものだと言えます。歴史上の有名な探検家たちにおいても、彼らは必ず最後には自分のホームを目指して還ってきたものです。

 どのような人間であっても物理的および精神的な居場所が必要であり、それらが失われそうになってしまうと大きな不安に襲われ、実際に失われてしまえば心身ともに路頭に迷うことになります。

 居場所が無くなれば生きていくことはできません。また居場所があったとしても行く場所が見つからなければ味わい深い人生を送ることはできないでしょう。 不幸とはこのように自分の居場所も行き場所も見つけられない状態のことを指すのでしょう。

 過剰な利益の獲得競争は人々の分離分断を加速させ、節度を失った強者は異常に膨張し、弱いものからその居場所と行き場所を奪い、その結果は、かつて強かったはずの組織の弱体化を招き、ついにはその害毒は強者にも戻ってくる結果となるでしょう。 現在の日本で起きていることはこういうことではないのだろうかと思っているのです。

 

#57 ◎stay young  2019216 

 昔むかしのラジオ英語講座の名物講師だった五十嵐新次郎氏の名文句“stay young!”を思い出しました。若い学生たちに、もっともっと若者らしくあれと檄を飛ばしていたのです。 

 現在のIT産業従事者の平均年齢は、経産省の予測値では39.7歳となっています。今から40年前はたぶん20歳台だったように思いますが、ずいぶんと高齢化したものです。あなたの所属している組織ではどうでしょうか。 

 老齢化した組織では何が起こっていると思いますか。組織を率いる管理職たちの多くは、激務に疲れ果てて、定年が来るのを指折り数えて待っていることでしょう。おまけに早期定年の一環として55歳近辺での役職定年もあります。このようなリーダーたちには組織の活性化や若年層の育成など、まったく期待できないでしょう。体はともかくも心が老齢化した者たちに“stay young”と言っても通じるわけもありません。 このようなやる気のない病的な状況は若手開発者たちにも伝染し、指示待ち族や責任転嫁族ばかりが増えてきます。

 

 失敗学の畑村洋太郎氏は次のように言っています。 

 年老いた組織では、「相手がやるはず」「誰かがやるだろう」という依存体質が蔓延し、結局だれもやらないすき間領域が出来てしまい、そこで大失敗が発生する。 

 組織の高齢化をすぐに止める方法はありませんが、現在の指導者的地位にある者たちに少しでもやる気を出してもらい、組織への最後のご奉公として組織活動を本来あるべき姿に戻すような活動をしていただく必要があるでしょう。当たり前のことを当たり前に実行するということだけです。 

 それをやる気もないと言うなら、その組織はまもなく大失敗の波に飲み込まれ、楽しみにしていたハッピーリタイヤメントも夢まぼろしと消えてしまうに違いありません。自分だけは免れると思うのは幻想に過ぎないでしょう。

  

#56 ◎ふけめし :2019213日 

 いささか不衛生な話で恐縮いたします。

 本日の報道によると、飲食店やコンビニなどの従業員が食品を不衛生に扱う動画の投稿が後をたたないとのこと。ゴミ箱に捨てた魚をまな板に戻したり、商品のおでんを口に入れ吐き出したり、というやりたい放題の「バイトテロ」動画が投稿されて問題になっているとのこと。 

 この報道をみて同じような話を思い出しました。 

 鉄の律則で知られた旧日本帝国陸軍では、上官による強烈な私的制裁によって体や心に深い傷を負わされた下級兵士たちが数多くいたという話を聞いたことがあります。 

 下級の兵士たちは、上官による軍務とは無関係な理不尽な命令に従わされ、鉄拳制裁は日常茶飯事のことだったそうです。これらの私的制裁行為には、ビンタをはじめとして蝉、うぐいすの谷渡り、カンカン踊り、自転車などの数々の隠語があり、これに耐えきれず自害や脱走に追い込まれた兵士たちも少なからずいたそうです。 

 このようなリンチに正面切って対抗するすべを持たない末端の兵士たちによる最後の反逆手段が「ふけめし」だったのです。 痛めつけられ復讐を誓った兵士は、自分が炊事当番になったときに、狙った上官の銀シャリのうえに自分の頭をかきむしってフケを落としたものを供したそうな。それを食べた後どうなるのかは知りません。 

 やくざ崩れの古参兵による執拗なリンチを目撃した旧満州派遣軍の一軍曹は次のように語っていました。古参兵を剣道場に呼び出し、今からお前を調練してやると言い、しごきにしごき泣きを入れても簡単には許さず、二度と同じことをしたら今度はこの程度では許さないと言い渡したとのこと。弱い者が更に弱いものをいじめまくるようなことは絶対に許さないと語っていました。 

 虐げられている弱い立場の者たちを見て見ぬふりをしているような社会では、「ふけめし」はいろいろな形をとって現れ続けることでしょう。

 

#55 ◎ドラッカーと水墨画~正気を取り戻すために :201927日 

 あの「マネジメント」で有名なドラッカーが水墨画や禅画などの日本美術の愛好家だったことを初めて知った。 ドラッカーは「正気を取り戻し、世界への視野をただすために日本の絵をみる」、「自分が中に入りこんでしまう。私の経験になり、人生になり、私自身のビジョンになっていく」と語っていたそうだ(河合正朝千葉市美術館長)。また米国クレアモント大学院の山脇秀樹教授は、ドラッカーは組織運営を考える視点を、水墨画と向き合うことで深めていったのではとみる。「マネジメントのためには、人間の本質を深く理解することが不可欠だと考えていた。絵が描かれた背景や思想に思いをめぐらし、人間についての洞察を深めていた姿が浮かんでくる」。(2019.1.24 朝日新聞)

 

 禅画と言えば、仙厓和尚の「指月布袋画賛(しげつほていがさん)」を思い出す。 

 そうら見てごらんと布袋さまが上空を指さし、子どもが無邪気にバンザイをしているだけの画だが、何とも気持ちがゆったりとしてくる。画賛には「お月様いくつ十三七ツ」と書かれている。 

 すばらしいのは肝心の月は描かれておらず、画を見る人がそれぞれ自分の頭の中でイメージするように促している。秀逸な画は、その一番描きたいものは直接描かずに、見る人がそれぞれの頭の中で描き出すようにしているところにあると思う。

 

 「落語の名人は話し出す前から聴衆を沸かせるように、アナウンサーの極意は自らは余りしゃべらないことである」とある名人アナウンサーが語っていたことを思い出す。 

 見えないものに究極の美や安らぎを見出してきた日本人の好ましい伝統的な意識を感じる。 

 何でも自分の事ばかり言い連ねることがリーダーシップだと思っているようなどこかの大統領や政治家たちや経営者たちは美しくもなく安らぎも感じらない。 

 

#54 ◎・・・のような人  ルックス・ライク :201921日 

 ルックス・ライク(LL)って「○○のような」と言う意味でしょう。しかし決して○○ではないのです。 

たとえば自分の名声や利益のために多額の寄付をする人は慈善家のような人であっても慈善家そのものではない。 

 そういうわけで今の世の中は「・・・のような人」で満ち溢れている。 

 課長のような人はいても本当の課長の仕事をしている人は少ない。部長も統括部長も同じだ。 プロジェクトリーダーという名前の人はいるが、プロジェクトをリードしている人は少ない。設計担当という名前の人はいるが、ちゃんと設計している人は少ない。システムインテグレータという会社名はあるが、だれもインテグレーションなどしてはいないのかも。みんな下請けに丸投げばかりしているのではないかと疑われてもしかたない。 

 

 多重請負構造の中にあって、元請けから下請けへ、下請けから孫請けへと仕事が丸投げされる中で、責任も1/2⇒1/4⇒1/8⇒ 1/16へと分解されていき、ついには1/∞=0となり、責任はいつの間にか雲散霧消し終にはだれの責任でもなくなってしまう。 

 そういうわけで、企業が事故や不祥事を起こした時、CEOとやらの最高責任者の人の常套句は「私は知りませんでした」になってしまう。CEOのあなたに情報が上がってこないような組織を作ったのはCEOのあなたのはずなのに、知らなかったという言い訳で責任が回避されるわけもないのに。 

 その言い訳を聞いた人々も、偉い社長さんならそんなこと知らなくても仕方ないと妙に納得する体たらくなのです。 最高経営責任者のような人はいても最高の責任をとる人はあまり見かけません。

 

 日本株式会社もどこもかしこも「・・・のような」人ばかりが増えてしまって不祥事が留まる処を知らない。 

 まずはあなた自身から、あなたに与えられた職位・職名にふさわしい仕事を始めるしかないでしょう。 

 あなたはルックスライクなリーダーでしょうか、それとも本物のリーダーになりたいのでしょうか。